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本日は、「農業バンザイ!」をお届けします。
ぜひ訪れていただきたい「野菜ソムリエ・中村陵子さんが主催する農業体験」の魅力をご紹介します。
野菜ソムリエ・中村陵子さんが主催する農業体験は、歴史のロマンに思いを馳せ、環境問題について考える、奥深く、そして美味しい体験です。
晴天に恵まれた10月某日、舞台は小林 茂好さん(十和田市沢田)の畑と田んぼ。
日本酒の再現を目指す「南部藩・復活酒プロジェクト」の布施さんご一家とご一緒しました。
自然栽培農法
小林さんの畑にはキュウリやトマト、キャベツなど色とりどりの野菜が元気に育っています。
一般的に普及している農法は、農薬を使用して作物の病気を抑え、化学肥料で成長を促しています。
対して、自然栽培農法は環境に優しく、より安全な作物を育てるために、農薬や化学肥料は使用しません。
小林さんの場合は農薬の代わりに電解水(酸性水やアルカリ性水)を使用し、化学肥料の代わりに大豆を植えています。
大豆などのマメ科植物は土壌微生物の根粒菌と共生して窒素固定します。
土壌だけでなく、大気中の窒素分子を利用する力があり、大豆の近くに植えられた野菜たちにも十分な窒素成分を届けてくれるのです。
環境を守りたい
世界的にも困難と言われていたリンゴの無農薬無肥料栽培に成功した『奇跡のリンゴ』の木村秋則さん。
「答えはいつもすぐ近くに、でもいつもは見えない世界にある、その見えない成果に気づく視点を持つことが大事、“答えは必ずある”」という信念の木村さんとともに自然栽培農法に取り組んでいるのが、小林さんなのです。
小林さんたちはなぜ、無肥料にこだわるのか、その目的は環境保護です。
温室効果ガスである「亜酸化窒素(N2O)」の排出量を抑えるため。亜酸化窒素は二酸化炭素やメタンなどと並ぶ温室効果ガスの一つだそうで、なんとその強さは二酸化炭素と比べて、300倍もあるのだとか。肥料は微生物の働きを助け、作物の生育を促す効果がある一方で、地球環境に大きな負荷を与えてしまうという負の側面があるそうです。
初めて聞く話に驚きつつ、地球温暖化の真犯人が見えたような気がしました。
世界的に見れば、増え続ける人口を賄うために食糧増産は必至で、今後ますます大量の窒素肥料が必要になるといわれています。
それは、気候温暖化を加速させる要因に直結するわけです。
食べ物だけでなく、環境も化学物質にまみれていると思うと、できる範囲で減らす必要性を感じます。当たり前のことですが、体は食べるものでできています。
そういえば、人間が疲れているのは体内の解毒に時間がかかるからで、自然栽培作物を食べていれば、疲れは簡単に取れるという話を聞いたことを思い出しました。
小林さんたちが取り組む、自然が本来持っている力を利用して環境と健康の両方が成り立つ自然栽培農法の意義が見えてきます。
まさに小林さんの農業は「SDGs」です。
野生のようなキュウリ
農薬を使うのは、消費者の好む見た目の良い野菜を育てるため。
見た目は良くても、栄養価は弱いという話に力がこもります。
キュウリを「ポキッ!」と真っ二つに折った小林さん。
「ここで育ったキュウリは栄養価のあるキュウリ。じゃ、くっつけるよ!」と、
その切り口を合わせてわずか数秒ほどで、キュウリは元どおりにくっつきました。
断面からにじみ出る成分が、表面を修復するのだそうで、ここで育てた作物には自然本来の力が宿っていると教えてくれました。
化学肥料を使わない『奇跡のキュウリ!』、まるで手品を見ているかのようでした。
あおもり藍(あい)を稲作に生かす
また、畑の一角には、あおもり藍が植えられていました。
あおもり藍に浸けることで種子が活性化し、「いもち病」などの病気の発生を防ぐことができるのだとか。
剣道衣にも藍が使われているそうで、汗の酸化に強く、布地を丈夫にして長持ちさせるとか、虫除け、さらには抗菌性も持ち合わせており、汗疹(あせも)やただれ、傷の炎症も防ぐ効果があるそうです。
つまり、藍を使うことによって丈夫・殺虫性・抗菌性ともに良くなるのです。
今回はあおもり藍の活性化と殺菌の効果に注目し、稲作に応用したわけですが、こうなると、農業は化学でもあります。
「南部藩・復活酒プロジェクト」
「中村さんたちと春に亀の尾を植えたの。小林さんに育てていただいた酒米で、お酒を仕込むんですよ。
歴史を感じながらお酒を楽しでもらいたい。洋野を訪れる人が増えるといいな」と、布施かおりさんはワクワクの笑顔で話してくれました。
布施さんが営む岩手県洋野町大野の「西大野商店」は、幕末から戦中まで販売していた日本酒『国光正宗』の再現を目指しています。
布施かおりさんの実家で見つかった製造法を基に、二戸市の酒造会社南部美人が仕込むのだとか。
当時の酒造りの醸造法である「開陳秘伝」と書かれた文書には酒母を造る手法や仕込みの工程、水や米の分量などが記されており、当時の手法を再現した酒造りに挑戦するのだそうです。
今日はその原料となる「酒米・亀の尾」をみんなで収穫するのです。歴史のロマンとしての農業です。
中村さんの「こびりっこ」
野菜ソムリエプロ・中村陵子さんは農家が育てた野菜のおいしさや感動を伝えたいと、地元野菜の販売拡大に奮闘しています。
田んぼに到着すると「はい、こびりっこだよ」と、新米「きりたんぽ」を振る舞ってくれました。
「こびりっこ」とは作業の間に食べる軽食のこと。
オープンしたばかりの「ファーマーズ・マーケットかだぁ~れ」で仕入たそうです。
ほかに、甘味がよく引き立つごぼう茶やリンゴ、桃ほどの大きさのすもも。
どれも、めちゃくちゃおいしい。
「こびりっこ」は仕事のアクセントであり、収穫の喜びです。
※「ファーマーズ・マーケットかだぁ~れ」とは
十和田おいらせ農協(本店・青森県十和田市、畠山一男組合長)が十和田市三本木里ノ沢に新設した農産物直売施設「ファーマーズ・マーケットかだぁ~れ」が10月9日にオープン。施設の売り場規模は東北地方で最大級。
同農協ブランドの十和田おいらせミネラル野菜「トムベジ」や、奥入瀬ガーリックポーク、十和田湖和牛を取りそろえるほか、同農協管内の下北地方の海産物を販売する。
稲刈り体験
ガムのような清涼感を感じて、見渡すと田んぼの周りには所どころにミントが生えています。
人間には落ち着く香りも、虫は苦手とみえて、防虫効果になるそうです。
ここでも、自然の力を活用した、無農薬の自然栽培が行われています。
張り切って、初めての稲刈り体験に臨もうとしたその瞬間、ある男の話がふいに蘇ってきました。間違って自分の足を片方切り落としてしまい、「かかあ足ねえ」と叫んだ男の話です。「かかあ足ねえ」が訛って「かかあし」、最後に「かかし」になったとか。
「かかし(片足)」にならないように、身体に余計な力が入る。
身構えると、なんだかバランスが悪くぎこちない。
次第に、リズムも良くなり、「かかし(片足)」になる危険も消え失せました。
直径10センチ程度の稲を、数本の稲で束ねるのだが、それがパズルのように意外と難しい。
農業は自然の大きな恵みを感じながら頭も身体も使う、総合格闘技です。
農業には愛情が大切
「十和田は黒土の豊かな土壌で、寒暖の差があり、偏東風(やませ)の影響で暑い時期が短いが、農業環境は素晴らしい。でも、環境以上に大切なのは『愛情』であることを知ってほしい。
育ちが悪い稲に向かって、「何でいつまでも育たないんだ!」とか「バカヤロー」などと意地の悪い言葉を使っては絶対ダメ。その瞬間に作物の成長はストップしてしまうんだ。それだけではなく、自分自身にも悪影響を及ぼす。
なぜなら、その言葉を一番近くで聞いているのは自分自身の耳だから。「天に向かって唾を吐く」のことわざのように、相手に害を与えようとして、かえって自分に災いを招くことになる」。
農業も人間関係も愛情が大切であることを、あらためて教えてもらった農業体験。
いまは収穫の最盛期、美味しいものが次々出てきますが、その育て方や生産者の想いまでは知らずに食べていることが多いもの。気になる方は、自然栽培のお米や野菜を味わってみてはいかがですか。
towada travel 特集記事「農業バンザイ!」ご興味を持っていただけましたでしょうか。
ぜひ、いろんな方に十和田市の農業を知っていただけたら嬉しいです。
取材・文:川村 徹(かわむら とおる)
撮影:鳴海 智子(なるみ ともこ)