サウナブームが到来
リアルでも漫画でも、空前のサウナブームである。
十和田湖にも今年4月、兵庫から移住した若者、樋口陽介さんが「十和田サウナ」なるものをオープンさせた。
私自身も何度もサウナに入った経験はあるのだけれど、樋口代表が力説する「ととのう!」という感覚がどうも腑に落ちない。
調べてみると、サウナ用語としての「ととのう」とは、サウナ浴により心身ともに健康になった状態を指し、漫画『マンガ サ道~マンガで読むサウナ道~』(タナカカツキ著、講談社刊)の中で描かれ、世間に浸透した言葉だそうだ。
ディープリラックスや多幸感などとも表現される境地をぜひ体験してみたいと思い、十和田湖・宇樽部キャンプ場に出かけてみた。
じっくり汗を流す
水着に着替え、ロシア製のサウナ小屋に入ると、ほのかに木の香りが漂ってくる。
まずは、水分をたっぷりと補給する。貸し切りできるサウナ室は2段式で、定員は6人。
座る位置が高いと熱く、好みの温度を選べ、濡れタオルを頭に巻けば長時間入っていられる。
意外なことに、会話も無理なく楽しめ、それほど息苦しさを感じないことにびっくりした。
「暑くて空気がカラカラに乾いた室内で我慢比べをする」という、これまでの先入観が消えていく。
薪を調整してくれるからなのだろうと、樋口さんの配慮に感謝しつつ、温度調整できることは貸切ならではの特権だと思った。
体が慣れた頃に「ロウリュ」が始まる。
それは、水を柄杓ですくい、熱したサウナストーンにかけて水蒸気を発生させる入浴方法だ。
途端に熱い空気と、ちょっぴり甘く、爽快感のある香りが鼻腔をくすぐる。
「北奥(ほくおう)のサウナ」を目指して
バケツの水には、付近にも自生するクロモジのエキスが溶けだし、サウナストーンは八甲田の石を使い、地元へのこだわりが半端ない。
「本場、フィンランドではサウナで身体が温まったらシラカバの枝を束ねたヴィヒタで身体を強くたたきます。
癒やしの木といわれるシラカバの樹皮や葉エキスにはフラボノイド、ビタミンCといった成分が含まれていて、ヴィヒタでたたくと白樺の天然オイルが肌にしみ込み、保湿、消炎作用で肌がすべすべになる。
さらに、新陳代謝が活発になり、リラックス効果もあるんです。
それを、この辺りに自生し、シラカバの仲間でよりハリ・コシのあるダケカンバでできないかと思案中です。
北欧に負けない『北奥のサウナ』を目指したい。」、熱弁に耳を傾けるうちに、大量の汗が噴き出してくる。冷たい水が恋しい・・・もう限界だ。
水風呂は十和田湖
壁画いっぱいに描かれたペンキ絵を銭湯でよく見かける。
しかし、ここでは「水風呂」はペンキ絵ではない、豊かな自然に包まれている十和田湖である。
サンダルを履き、腰が浸かるまで湖の沖へと進む。
大きな深呼吸をひとつして、思い切って肩まで沈んでみる。
水温は20度ほどあるが、最初の水浴は思いのほか冷たい。
しかし、2セット、3セットと繰り返すうちに、あんなに冷たかった湖が、次第に快感へと変わっていく。
聞けば、「サウナの真髄は水風呂にある」という。火照った体を瞬間冷却すると快感が得られる。
つまり、サウナ―にとっては冷たさが「ごちそう」なのである。そして、「名水」ある所に「名サウナ」あり、である。
大切なことは休息
湖から上がるとサウナの至福のとき、「休憩」が待っている。
水気を拭き取り、バスローブに身を包み、デンマーク製の椅子に深く腰掛ける。木陰の外気浴が気持ちいい。
ゆっくりと目をつぶれば、冷えた身体がじんわり温まっていき、脳内をぐるぐると恍惚感が埋め尽くしてゆく。
サウナの効果を最も味わえるのは、なんと「休憩」のときだそうだ。汗をたっぷりかくことよりも「休憩」が大切、、、私のサウナ観が変わった瞬間である。
それにしても、身体も頭もスッキリさわやかになるのは、どのような仕組みによるのだろう。樋口さんによれば、急激な温度変化により脳内で「β-エンドルフィン」「オキシトシン」「セロトニン」の3つの物質が分泌されるという。
「β-エンドルフィン」は鎮痛効果や気分の高揚・幸福感が得られ、「オキシトシン」はストレスを緩和し、「セロトニン」は精神安定の効果があるのだとか。
これらの物質が脳内にあふれることが「ととのう」の正体であるらしい。
「交感神経」と「副交感神経」は、内臓、血管などの働きをコントロールし、体内の環境を整える「自律神経」である。
しかし、意図的にコントロールすることが難しく、自律神経が乱れると、体調不良や病気の原因になる。全身を暖めることと冷やすことを繰り返すサウナ浴は、休憩を挟むことで交感神経と副交感神経を交互に刺激する。
それにより身体機能が活性化し、自律神経系が回復する。つまり、休憩をしっかりと行うことで、自律神経の失調を回復させることができるのだ。
人は誰でも社会生活を営む中で、ストレスと戦っている。
サウナ浴は本来備わっている自然治癒力や免疫力を高め、素の自分を取り戻す格好の手段なのだ。ストレス社会の裏側で、サウナが流行る理由がわかる気がした。
「フロ」と「ユ」
さて、「フロ」と「ユ」の語源をご存じだろうか。
そもそも、「風呂」は蒸気浴や熱気浴を、「湯」は温浴や水浴を表した。
つまり「フロ」と「ユ」は異なる入浴方法なのである。蒸気を直接浴びるのは熱いので、敷物を敷く必要があった。
それが風呂敷だと樋口さんが教えてくれた。6千年前の縄文遺跡でも温泉浴の形跡があるそうだ。
私たちの祖先はずっと昔から心と体の浄化の術を知っていたのだ。私たちが気持ちいいと感じるのは縄文人のDNAのせいかもしれない。
十和田サウナにいってみよう
「都会に暮らしていると『自然』というものは電車や飛行機に乗り、時間とコストをかけてはじめてたどり着く世界。でも、ここでは、パソコンから視線をずらすだけで、圧倒される自然がある。」都会からワ―ケーションをしつつ、その合間にサウナを体験しにやって来た樋口さんの友人の言葉が印象的だ。
「ととのうと、感覚が鮮明になって、刻一刻と移り変わる十和田湖のエネルギーを感じることができる。今自分ができる十和田湖の魅力を伝える方法はサウナだと思う。」と熱く語る樋口さん。
「五感が研ぎ澄まされ、眠っていた機能が覚醒すると、『いつもの食事』が『特別なごちそう』になります」と、話は止まらない。
「十和田サウナ」のある宇樽部キャンプ場にはコテージもあるし、バーベキューもカヌーも体験できる。
「十和田サウナ」は都会にはない、ここだけの体験である。
towada travel 特集記事「十和田サウナでととのう」ご興味を持っていただけましたでしょうか。
この自然の雄大さを、間近で感じてみるのはいかがでしょうか。
取材・文:川村 徹(かわむら・とおる)
ご予約について
申し込みは十和田サウナのホームページから。
時間:10:00~12:00、14:00~16:00(貸切制)
定員:6名
料金:1~4名 22,000円(税込)
※5人目からは1人につき5,500円追加。