歴史に目を向けることで、十和田湖の旅が何倍も楽しめる
晴れ渡った青空の下、緑溢れる十和田湖は初夏の清々しい雰囲気に包まれていました。
自然ガイドクラブの吉崎さんにガイドをお願いし、十和田湖歴史への理解を深めるための旅に出かけました。
かつて十和田湖は、大森林が広がる高山の頂上に神秘の青い湖水をたたえた世界であり、十和田青龍大権現を祀る神仏習合の霊山、山岳霊場であったと言われています。今日は、僧侶や修験者、参詣者が通ったと伝えられる道をたどります。
集合場所は旧参道入り口に聳え立つ推定樹齢300年以上とも言われる大イチョウの木の下。
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かつて、この場所が十和田神社へ続く参道の入り口で、5つの旧参詣道すべてがここに集結し、
参詣者は神田川(解除川)で身を清め、神域へと入って行ったそうです。
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ガイドの吉崎さんが資料を見せてくれました。
かつてのこの周辺の様子が、1807年(江戸時代)にここを訪れた、紀行家・菅江真澄のスケッチに描かれています。
菅江真澄は十和田参詣を果たし、紀行文『十曲湖』(とわだのうみ)を残しました。
吉崎さんに見せていただいたスケッチは、その『十曲湖』の挿絵です。
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旧参道入口の大イチョウを通り、旧参道の神社へ続く杉並木に入って行きました。
霊山十和田として多くの人々が参詣する霊場として栄えた江戸時代。
参詣者が多くの山や峠を越えて歩き続けた末に、やっとたどり着いた十和田湖。
どんな思いでこの杉並木を歩き十和田神社に向かったのだろうか?などと先人達に思いを馳せながら旧参道を進みました。
※旧参道の杉並木は、木材腐朽化で危険木があります。今回は特別に許可を得て中を少し歩かせていただきました。
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この参道には樹齢250年以上とも言われる巨大な杉が立ち並び、壮観かつ清々しい雰囲気を作り出していました。
生い茂っている杉の木に負けまいと、四季折々の山野草が目を楽しませてくれました。
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特にオオウバユリがダイナミックにあっちこっちで咲き誇っていました。
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杉並木を出てから「一の宮」という鳥居のある岩山に登りました。
ここには白馬が納められた八幡宮の祠、八之太郎の祠、三つから成り立つ熊野山の祠が建っています。
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八幡宮と熊野山は、表面を向いて建てられていますが、八之太郎の祠だけ何故か湖に向けて建てられています。
もしかしたら、湖を懐かしんでいるのでしょうか。
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十和田湖伝説について
十和田開山を行った南祖坊が(のちの聖観音の生まれかわりとされる)、様々な修行と苦難の末に十和田湖に入って入定し、十和田の「カミ」青龍大権現となった。
そして、八つの頭の大蛇(八郎太郎が悪事を働き変身した姿)が支配していた十和田湖を平和で穏やかな「仏の湖」に変え、人々に恵みをもたらしたという。
南祖坊と大蛇の戦いは、七日七夜の激しい戦いと伝えられている。これは、国有史上最大の火山噴火であった十和田大噴火の記憶を伝説化したしたものとされる。
※諸説あります。
一の宮の次は、いよいよ十和田神社へ向かいます。
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参道を進んだ先、深閑とした霊域の十和田神社境内は、うっそうとした木立に囲まれた、北東北を代表するパワースポットです。
御手洗場では、修験者たちが耳や目などの不浄とされるところを全て清めたそうです。
夏になると、この一体にヒメボタルが現れ、幻想的な雰囲気に包まれます。
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霊山十和田の中心、十和田神社の拝殿。江戸時代にはここに三面四面片形・宝形づくりの仏堂「十和田御堂」が建っていたと推定されるそうです。
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ガイドの吉崎さんに十和田神社をじっくり解説してもらい、十和田神社の宮司の奥様からも貴重な話を聞かせてもらいました。
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十和田神社の裏手の急な階段を上って行くと、神仏分離令により仏教的なものが移された神泉苑があります。
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185段の木の階段を登るのは、普段から運動不足の私にとっては正直、楽ではありませんでした。
足がガタガタ震え、体力の限界を感じました。
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頂上には、南祖殿と十和田青龍権現社の2つの祠が鎮座していました。
静寂とした雰囲気の中、今も竜神の息づかいを感じるかのような神秘に満ちているこの場所で、なんとなく強い力を授かったような気がしました。
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南祖殿について
弥勒の出世を願って十和田湖に入定した、江戸時代の人々の伝説のヒーロー、南祖坊が祀られています。
ここで願い事をすると、自分の理想の世界に生まれることができるとされています。
十和田青龍大権現(元宮)について
南祖坊の生まれかわりであり、十和田湖の伝説の主。北東北に広く浸透する十和田信仰の中心神です。
病気の治癒・恋愛成就・出世など、「どんな願いも叶う」とされています。
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ここには、もう一つ険しい鉄梯子があります。
体力が底をつきそうでしたが、最後の力を振り絞って頑張って登って行きました。
そこには石で作られた治水の神様として崇められている小さな八幡宮が鎮座していました。
もともとは、弓矢・戦勝の神でしたが、現在は疾病をやっつける神様、すなわち病気平癒の神様であり、その強いイメージから治水の神様として崇められています。
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ここには「占い場」(オサゴ場)に通じる鉄の梯子がありますが、現在は残念ながら通行止めとなっています。
そこは、深淵に臨む岩場に杉の巨木がそびえる神秘的な場所だそうです。
※オサゴ場とは、「御産供場-おさんぐば-」がなまったもの
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戻るにはまた鉄の梯子と木の階段を下る修行が待っていると思うと、少し億劫でしたが、
たくさんのパワーをもらったおかげで、なんだかとっても軽やかでした。
十和田神社から次は、十和田湖へ向かいます。
十和田神社から御前ヶ浜(カミの前の浜の意味)に通ずる「開運の小道」に沿った岩山にの崖には、6の窟(風の神・火の神・山の神・金の神・天の岩戸・日の神)があり、そのうちのいくつかは人の手で拡張・整形された痕跡があり、修験窟の跡を見ることができます。
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さらに遊歩道を進むと、乙女の像が見えてきました。
乙女の像について
高村光太郎作の一対の美しいブロンズ裸婦像。
景勝地十和田湖を全国に紹介した大町啓月、十和田湖観光開発に尽力した方奥沢村村長の小笠原耕一、青森県知事の武田千代三郎の3人の功績をたたえ、顕彰碑(国立公園指定15周年記念事業の一環)として建設されたのが「乙女の像」です。
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休屋という地名について
夏の祭礼のときに参拝者や昇進に籠る人が宿泊する小屋があり、「休屋」「長床」などと呼ばれていたそうです。
現在の地名「休屋」はこの宿泊小屋「休屋」に由来するものだそうです。
ですので、休屋には宿泊施設や飲食店・土産物店があります。
遊歩道を進むと、恵比寿・大黒島が目の前に現れて来ました。
別名・果報島と呼ばれ、水際から島に向かってお賽銭を投げ、届けば願いが叶うと言われています。
昔は神社参拝を終えた人々の息抜きの場所だったそうです。
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旅も終盤に差し掛かり、ホット一息つきたく、森田商店にお邪魔させていただきました。
いつもなら甘い物に目がない私ですが、今日はなぜかガッツリ食べたい気分。
それほどたくさんのエネルギーを消耗した証拠ですね。
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創業昭和6年の「もりたお土産と御食事の店」
他のお店にないオリジナルひめます料理を提供しています。
ひめます一夜漬け茶着けと、ひめます塩焼き弁当は、ひめますが美味しくなる工夫がいっぱい詰まってます。
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今回は、おもに歴史を中心に案内してもらったのですが、途中にある樹木や花、石碑、十和田湖の誕生から地層、乙女の像、高村光太郎と多岐にわたり案内してもらい、充実した内容の4時間半となりました。
霊山十和田と呼ばれた時代への理解を深めるいいきっかけとなりました。
歴史に目を向けることで、十和田湖の旅が何倍も楽しめます。ぜひ十和田湖へ訪れた際は、地元ガイドと一緒に散策してみてはいかがでしょうか。
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towada travel 特集「地元ガイドと巡る十和田湖歴史の旅」、ご興味を持っていただけましたでしょうか。
ぜひ、いろんな方に足を運んでいただけたら嬉しいです。
取材:工藤 尚子(くどう なおこ)・大西 錦姫(おおにし くみ)
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十和田湖の霊場の一つで、昔修験者が籠もったことからその名がついたと言われる「自籠岩(じごもりいわ)」、いまに残る行場の跡へ。不整地の遊歩道を歩くハイキングと岩場に登るクライミングが融合した、⼗和⽥湖⾃籠岩・空中散歩(ヴィアフェラータ)ツアーをご紹介します。