みなさまこんにちは。towadatravelの特集ページへようこそ。
本日は、「伝統を紡ぎ、未来へ繋ぐ手しごと」をお届けします。
ぜひ体験していただきたい、
十和田市の伝統工芸品「きみがらスリッパ」づくりをご紹介します。
十和田市の道の駅「とわだぴあ」に到着しました。
きみがらスリッパづくりを体験する場所は隣にある「匠工房」です。
早速中へ入ろう。
ところで「きみがら」とはいったいなんだろう?
その答えは、畳の部屋に準備された、道具と材料からすぐに分かった。とうもろこしだ。
東北地方の方言で、とうもろこしを「きみ」と言い、”きみがら”とは、とうもろこしの皮のことなんだそうだ。
「きみがらスリッパ」とは秋にきみとうもろこしの皮を一枚一枚丁寧に剥ぎ取り乾燥させ、農作業の終わった冬に一枚一枚心を込めて編み込み作られる履物のことを言う。
いよいよ制作体験スタート
藁を細い縄上にして作った輪が2つと、編み込んでいくきみがらが準備されている。
きみがらを手に取ると、乾燥させているのでカサカサしている。
製作の際は、きみがらが破けないよう、水にくぐらせ、柔らかくしながら編み込んでいくそうだ。
指導してくださるのは、きみがらスリッパ生産組合の組合長である宮本さんと、組合員の村舘さんの2名。
きみがらスリッパの製作工程は、大きく3段階に分けられる。
まずは先端から指の付け根部分の「土台」を作り、続いて指が入る「屋根」を作り、最後にかかとまでの「底」を作る。
製作体験では、「土台」まで組合員が事前に作り、2つ目の「屋根」からスタートするのだそう。
今回は、「土台」から制作体験をさせてもらった。
最初が肝心。
宮本さんの手を借りて、つま先部分を作る。
きみがらには”表”と”裏”があり、一枚一枚確認しながら進める。
「土台」づくりをしながら、次の「屋根」づくりで使うきみがらを挿し込むなど、伝統の技に感銘を受ける。
途中、渡されたのは、薄紫色に手染めされたきみがら。
どんなデザインのきみがらスリッパができるのか楽しみにしながら、編み込みを続ける。
体験をしながら、きみがらスリッパの誕生について話を聞いた。
きみがらスリッパ誕生の背景
十和田市では150年以上前から馬市(馬のセリ)が開催され、明治17年には軍馬育成所(後の軍馬補充部)が開設し、日本最大の馬産地として知られてきた。
そのため、馬の飼料用作物として「デントコーン」という品種のとうもろこしが盛んに栽培されていた。
きみがらスリッパの生産が始まったのは、軍馬補充部が解体された翌年の昭和22年。
当時青森県庁に勤めていた十和田市出身の方が、定年退職を前に何かを残してから県庁を去りたいという“思い”がきっかけだった。
そこで、飼料用として果実のみ利用し、残渣物として処理されていたデントコーンの皮に注目し、
地元の婦人会と共に、山形県からガマスリッパの講師を招き、きみがらを使用するスリッパ制作講習会が開催された。
この講習会に参加していた八郷地区の会長は、この講習会から得た技術を、軍馬補充部解体により、
当時収入の少なかった同地区に取り入れ、新たな工芸品として収入に繋げ、生活を豊かにすることを考えたのだ。
農閑期になるとこの会長宅に会員が集い、きみがらの特徴に合わせたスリッパの製作方法の研究に励み、現在の形になるまで10年の歳月を要したという。
その後、1963年に十和田きみがらスリッパ生産組合が設立。
1998年には青森県指定伝統工芸品に指定され、伝統や技術は現代まで引き継がれている。
スリッパのつま先部分が出来てきた。
次はいよいよ「屋根」の部分だ。
宮本さんの説明に耳を傾けながら手元に注目する。
一つ一つの工程が丁寧だ。
針や糸は一切使用せず、きみがらの編み込みのみで作りこむのだが、力加減がとても難しい。
大きさが違うきみがらは、重ねて長さをだしている部分もあり、力を入れすぎると抜けてしまう。
力を入れずに編み込むと強度が無く、壊れやすくなるため適度な力加減が常に必要となる。
コツをつかむと、どんどん編み込みこんでいける。
力を入れすぎずに丁寧に作業を進めていく。
作業進めること2時間。
ようやく「屋根」の部分まで完成した。
ずっと同じ姿勢で作業をしていたので、少々肩が凝る。
ここで作業をとめて、昼休憩。
実際の製作体験でも、1時間の昼休憩を設定しており、道の駅でゆっくりとご飯を食べることができる。
宮本さんと村舘さんに、きみがらスリッパとの出会いや魅力について話がはずんだ。
2人は20年前、十和田市が主催した体験会に参加したのがきっかけだった。
きみがらスリッパを履くと、冬は暖かいし、夏は涼しい。
ただ、ずっと履けるものでもないので、月1回開かれる勉強会で、新しいきみがらスリッパを作りながら、組合員との交流を楽しんでいるという。
きみがらスリッパ制作体験は、十和田に来たらすぐにできるというわけではない。
月に1回、定員5名の募集で、10日前までの予約が必要になる。
そこには大きく2つの理由がある。
1つ目は体験に対応できる組合員の数。
現在20名が所属しているが、指導できるのは5名。
地元の高校できみがらスリッパを授業で学んだ卒業生や、宿泊施設の従業員等、若い世代も増えつつあるが、指導できるほどのレベルになるには、10年以上かかるという。
また、指導者の中には農家もいて、当時のように繁閑期しか対応できない方もいる。
2つ目は体験までの準備。
体験者に1足としてお持ち帰りしてもらうために、当日担当する組合員は、事前に片足を制作し、体験用にもう片方の土台まで準備する。
皮の長さや固さ、厚さなどを編む部分によって使い分けるため、1枚1枚選別する。
また、きみがらスリッパの種類には、皮本来の無地のものから、手染めして色を付けたカラフルなものまでありそれも組合員自ら行うため、
製作以上に準備へ手間と時間を要する。
「先代の組合員たちが守り伝えてきた知恵や技術を、若い人たちに何とか残していきたい。」
宮本さんの思いや、体験までの準備の苦労を聞くと、感謝の思いでいっぱいになった。
お2人の話を聞いているうちに、疲れはすっかりどこかへいってしまった。
休憩を終えて、ここから作業は最後の工程「底」づくりに入る。
「いいよ。いいよ。そのまま続けて」
作業を、となりでやさしく見守る宮本さんと村舘さん。
夢中になって作業を続ける。
作業開始から4時間。
とうとうきみがらスリッパが完成した。
水をくぐらせて作ったので、2~3日干して、水分が完全になくなったら使用できる。
観光地で体験コンテンツを選ぶ際、私たちは何を重視するだろう?
料金、時間、そこでしか体験できないこと・・・
きみがらスリッパ体験の場合、利用者は県内が多く、観光客はほとんど来ない。
月に1回、1回5時間、事前予約制等、選ばれにくい理由は分かっているが、今回、この記事を配通じて、”旅前”で知り、
この体験を目的に十和田を訪れる人を期待したい。
十和田に来ていることも忘れ、地元のおばあちゃんと話をしながら、胡坐をかき、目の前のきみがらを編み込む。
気が付くと時間が過ぎ、スリッパを手元に、貴重な時間となり1日が終わる。
達成感を感じながら、自分で編んだきみがらスリッパを見つめると、「次はもっとうまくできる」、「1足全て自分で作りたい」そんな思いがはせてくる。
事前に相談があれば、2日間の体験も可能だという。実はそれが組合員の負担も減るそうだ。
手作りの温もり、とわだ旅での思い出はこれからも
「十和田で何もしないをする。」きみがらスリッパ制作は、このキャッチコピーにあった体験だ。
メジャーな観光地にはいかず、おばあちゃんの家に来た感覚できみがらスリッパだけを作る。
家に帰り、足もとを見るとそこには自身で作ったスリッパが。踏みしめながら、自宅での”とわだ旅”は続いていく。
towada travel 特集「伝統を紡ぎ、未来へ繋ぐ手しごと」、ご興味を持っていただけましたでしょうか。
ぜひ、いろんな方に足を運んでいただけたら嬉しいです。
撮影・取材:工藤 彰(くどう あきら)・七戸 絵美(しちのへ えみ)
文:工藤 彰(くどう あきら)
今回体験したメニューはこちら
体験品目:きみがらスリッパ1足
体験時間:約4時間 【毎月第3日曜日(10:00~15:00)※定員5名】
※10日前までに事前予約をお願いします。
体験料:3,500円