奥入瀬渓流の苔の森を再現するこけ玉(モスボール)作り体験
みなさまこんにちは。towadatravelの特集ページへようこそ。
本日は、「小さな奥入瀬をマイルームへ!」をお届けします。
ぜひ体験していただきたい、「コケ玉」づくりをご紹介します。
奥入瀬渓流を知る
十和田八幡平国立公園の十和田湖から唯一流れ出る奥入瀬川の上流14㎞は、
四季折々に自然の美しさを堪能できる奥入瀬渓流(おいらせけいりゅう)です。
国立公園の中でも、特に大切な特別保護地区に指定されているほか、
国の特別名勝及び天然記念物にも指定されている文化財。
まさに特別な場所、私たちの宝物です。
奥入瀬渓流は、十和田火山の爆発の後のくぼみに十和田湖ができ、
たまりにたまった水が、一気に流れ出し、山肌を削り作り出したものです。
最近の研究では、水量が毎秒2t〜30tもの巨大洪水であったため、滝が多いU字型の特徴的な渓谷が誕生したことがわかってきました。
毎秒30tの水量がどれぐらいかというと、わずか4秒で東京ドームが一杯になるすごい量。
巨大な洪水がおさまったあとの岩だらけの谷が、植生豊かな渓谷にどうして成長できたのか、奥入瀬のバイパス工事にかかわる青森県県土整備部道路課が開設し、NPO法人奥入瀬自然観光資源研究会(おいけん)が管理運営してるいてる「奥入瀬フィールドミュージアム(OFM)」の中の一文に、「風や鳥や動物たちによって運ばれたタネが芽を出し、成長するまでには、その岩を覆った緑の敷布の力添えあってのこと」とあります。
名もなきコケや菌類の働きが大切だったわけですね。
その存在の重要性や希少性が研究され、2013年、奥入瀬渓流は日本霜苔類学会によって19番目の「日本の貴重なコケの森」に選定されました。
奥入瀬渓流物語の続きを自宅で
美しい奥入瀬渓流が誕生するまでは壮大な時間と営みがありますが、自宅に持ち帰って「自分だけの小さな奥入瀬物語」を簡単に始められるのが、
奥入瀬渓流館にある苔玉(モスボール)作り体験です。
この日は、奥入瀬モスボール工房のスタッフの川畑さん(右)と永瀬さん(左)が優しく指導してくれました。
まず、苗木を1本選びます。
奥入瀬の森を構成する主要な樹種の中から、ここではブナ・カツラ・ケヤキ・モミジ・シダなどの中から選ぶことができます。
今回は、「ブナ」にしました。
天然乾燥の時代は大量に水分を含むので扱いが難しい、用材として役に立たなかったので「橅」の字を当てたとか。
十和田湖にも、「青橅(あおぶな)」の地名があります。
今は、天然のダムとして私たちに命の水を提供してくれていることが理解され、世界最大級のブナの原生林がある白神山地が日本で最初のユネスコ世界遺産に登録されたり、奥入瀬の多くの滝は、ブナの森の湧水が集まって流れ出しているなど、ブナは大逆転劇の主役です。
世界で水不足が深刻な問題になっている中、感謝の気持ちで「ブナ」を選びました!
ちなみに奥入瀬渓流館では、
ブナに聴診器を当てて水を吸い上げる音を録音した「ブナの命の鼓動」を聞くことができます。
ミズゴケは苗木の敷布団
いよいよ作業がスタート。
まずはミズゴケで苗木を包みます。
おにぎりぐらいのミズゴケを取り、真ん中を少しへこませて広げます。
真ん中に苗木を入れて、おにぎりのようにぎゅっ、ぎゅっと握ると、水分を含んだミズゴケがおにぎりのようになりました。
そしてほぐれないように糸を巻きます。
永瀬さんがお手本を見せてくれます。
※スタッフは新型コロナウイルス感染症対策のため、マスク、手袋を着用しています。
「ミズゴケを取りすぎると大きいおにぎりになり、少ないと水分補給が足らなくなるかも」などと考えていると、「それぐらいでいいと思いますよ」の永瀬さんの声。
これなら、誰でも適量を取ることができます。
自分が選んだブナの苗木の根っこが大きかったので、結構大きめのおにぎりになってしまいました。
が、逆にこれが幸いして、糸を巻く作業では、指をかける部分が広かったので、自分の指を巻いてしまう失敗や、糸を絡めることなく無事にできました。
いよいよ、コケの掛布団をかける
永瀬さんから、いよいよ、仕上げのコケの掛布団を受け取ります。
永瀬さんの指導で、シュー、シューと表と裏に水を吹きかけます。
あまり吹きかけるとコケが丸まってしまい、作業がしにくくなってしまうのだそう。
コケの掛布団も作業しやすいように工夫されて、霧吹きの回数まで教えくれる分かりやすさ。
手ボケ(この辺では不器用なことを言います)な自分でも心配なし。
そっとコケをかぶせて、底にコケがかかると腐ってしまうと指導を受け、周囲に回しこむようにしながら、砲弾型になるようなイメージで優しくぎゅっ、ぎゅっと形をまとめます。
そしていよいよ仕上げの糸を巻きます。
作業のポイントはコケ玉を持つ手の親指でコケをそっとおさながら、糸を巻いていくこと。
たくさん巻きすぎるとふわっと感がなくなるので、多少のはみだしも残っているぐらいで完了。
糸の端をくしでミズゴケの中にしまい込んで、永瀬さんの作ったシダの苔玉と並べると、まさしく小さな奥入瀬の出来上がり。
自分で作ったからか、すごく絵になる!
オプションで目玉を付けた「苔の妖精コッキー」も作れます。
体験時間はゆっくりやって30分。体験料は2,000円。
苗木はサイズによって値段が変わり、今回のブナの苗木は500円。合計2,500円でした。
できたコケ玉は湿らせたミズゴケを敷き詰めた箱に入れてくれます。
新幹線や飛行機でも持ち帰りができ、2、3日は箱のままでも大丈夫とのこと。
最後に、永瀬さんからお手入れのレクチャーがあります。
「よろしくお願いします」に背筋が伸びる!
「水はこまめに上げてくださいね。でも多すぎて水が溜まっているようだと根腐れの原因になってしまいます。ミズゴケは水滴をふき取るマットだと思ってください。時々優しい日光を浴びせてあげて。閉め切ったところより、風通しがあれば喜びます」。
手渡されるときに「ありがとうございました」ではなく、「よろしくお願いします」と言われて、小さな森だけれど大切な命を預かったシャキーンとした気持ちになりました。
冬は枯れ、春に芽吹き、萌える新緑から深い緑へと小さくても四季があるのだから、大事にしないと。
自然の営みの深さに気づかされて思わず、枯らさないためには誰に預けるのが一番いいか、思いを巡らせるのでした(笑)。
それにしても絵になる。
コケ玉のはじまり
奥入瀬モスボール工房は、プロレスラーだった起田高志(おきたたかし)さんが、けがを機に引退し、帰郷後に「コケ玉屋」さんをはじめ、奥入瀬渓流の「コケが生えた岩」を実現するまで、毎日悩み、コケを丸め続けたそうです。
プロレスラーだった沖田さんが、情熱をこめてモス(コケ)ボール作りに向き合うことからついた職名が「プロモスラー」。
世界にただ一人です。
奥入瀬渓流は特別保護地区ですので、農家さんと契約して、地区外から材料を調達して供給体制を完成させることも大変なこと。
その苦労をちっとも感じさせず、大きくごつい体とこわもての表情とは裏腹に、やさしくコケを包むプロモスラー起田高志さんは、今やたくさんのファンがいる奥入瀬のゆるキャラです。
奥入瀬渓流館では、ひょうたんランプ製作体験もできます。
デザインは、奥入瀬の苔の模様をモチーフにしたもの。
展示しているランプを見るだけでも、コケの奥深さを感じることができます。
ぜひ、奥入瀬モスボール、奥入瀬ランプをご覧にお気軽にお立ち寄りください。
コケ玉を作り終えた後は、奥入瀬渓流館の隣で作られている「奥入瀬源流水」で淹れた「奥入瀬珈琲」、「コケソフト」がおすすめです。
十和田トラベル特集「小さな奥入瀬をマイルームへ!」ご興味を持っていただけましたでしょうか。
ぜひ、いろんな方に足を運んでいただけたら嬉しいです。
取材・文:山本隆一(やまもとりゅういち)